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名取 和幸先生
一般財団法人日本色彩研究所 理事/研究第1部シニアリサーチャー。東洋大学、女子美術大学、文化学園大学非常勤講師。 色彩心理学(色彩嗜好、色名、UD、絵本と色) に関わる著書多数。
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小林 菜々恵さん
多摩美術大学4回生。プロダクトデザイン専攻だがグラフィックデザイナーの仕事に興味がある。
最近、美大の友人が「色のユニバーサルデザイン」について学んでいるそうで、とても気になっています。そもそも、色のユニバーサルデザインって何ですか?」
実は、人によって色の見え方には違いがあります。遺伝などによって区別しづらい色の組み合わせを持つ方や、青い光を認めにくくなる高齢の方など、色の見え方はさまざまです。このことを、色覚(色を識別する感覚)の多様性と呼んでいます。
私が赤い色に見えていても、他の方には違う色に見えることがあるということですか?
そういうことがあるんです。たとえば、危険を知らせる赤い表示が見えにくかったり、色分けされた路線図がわかりにくいことがあります。しかも、人によって区別しづらい色の組み合わせや見にくい色は異なります。
色覚の多様性に配慮した色づかいをすることが色のユニバーサルデザインってことですね!
そうです。そして色づかいに加えて形を変えたり色名を入れるなどして、誰にとってもわかりやすくすることが、色のユニバーサルデザインなのです。多様性が重視されるこれからの時代、誰もが見やすい色づかいは色に携わるすべての人にとって必要な知識ではないでしょうか。
特定の色を判別しづらい人はどれくらいいるんですか?
遺伝などによる人は日本人男性の5%、女性の0.2%といわれています。男性だと20人集まれば1人、女性は500人に1人という計算です。人口全体では300万人以上存在することになります。
300万人以上!そんなに多いんですか。もっと少ないのかと思っていました。
また、年を取ると目のレンズにあたる組織が褐色に色づいてくるので、どんな方でも色の見え方は変化するのです。
日本は超高齢社会なので、ますます色に関わる問題は重要になってきますね!
色覚の多様性は日本だけでなく、世界の課題でもあります。白人男性だと8%程度の方が特定の色が判別しづらいといわれています。
実際にはどのような色の組み合わせが見えにくいんですか?
たとえば、オレンジと黄緑は区別がつきにくい組み合わせのひとつで、同じような色に見えます。他にも赤と緑や、青と紫の区別がつきにくかったりします。また、赤に対する感度が低いために赤が暗く見えるタイプの方もいます。
そうであると日常生活ではどのようなことに困りますか?
よく聞く話だと、肉の焼け具合の判定が苦手な方がいます。焼けたと思って食べたらまだ生だったということもあるらしいです。それと、レタスが古くなったかどうかも判別つきにくいようです。茶色くなっても緑の濃い部分のように感じるようです。
肉が焼けたかどうかがわからないのはちょっと困ります!
街中で困ることはありますか?
たくさんの色を使っている路線図だと見分けがつきにくかったり、券売機で黒地に赤のLEDで記された料金表示が読みにくかったりします。それと高齢になると青い光が見にくくなるので、たとえばガスコンロの青い炎の先端が見えず火傷をしたという事例もあります。
私たちが普段何気なく見ている色も、人によっては生活に支障を来している可能性があるんですね。あまり想像ができないので不思議な感覚です。
色を区別しづらい場合の見え方を確認できるアプリやメガネがあるので、それを使ってみましょうか。それでは街に出て区別しづらい色の組み合わせを探しに行きましょう!
色を区別しづらい模擬体験ができるメガネ「バリアントール」をかけると、どの色の区別がつきづらいかがわかるんですね!
そうです。早速、バリアントールをかけて街の中を歩いてみましょう。
「バリアントール」をかけると世界が黄土色に見えますが、実際に色を区別しにくい方が同じように見えているとは限りません。このメガネは「どの色とどの色が区別しづらいか」をチェックするためのものです。
女子トイレの赤い色と公衆電話の緑の色が同じ色に見えませんか?
あっ!同じ色に見えます!全然違う色なのに…。
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[ 一般的な見え方 ]
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[ 色弱の方の見え方を擬似表現 ]
一般的な見え方(左図)では、「女子トイレ」を示すマークの色は赤い色に見え、「公衆電話」を示すマークは緑の色に見えることでしょう。赤系統と緑系統の区別がつきにくい方にとっては、赤と緑のマークが色が似て見えます(右図)。対象物が離れた位置に記載されている場合は見比べるのが難しいため、より同じ色に見えてしまいます。
「歩きスマホ」の危険を知らせる看板ですが、バリアントールで見ると、
赤い×が目立っていないですよね?
はい!赤と黒いスマホが同じ色に見えるので「×」の印が馴染んでます。
看板の存在に気付かないかもしれない…。
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[ 一般的な見え方 ]
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[ 赤が暗く見えるタイプの疑似表現 ]
一般的な見え方(左図)では、赤い色で記された×印が誇張されています。
しかし、赤い色を見づらいタイプの方にとっては×印が文字の黒色と似た色に見えるため、あまり目に入りません。改善点としては、赤い色をオレンジ色にして、スマホと×との境界を白く抜くと区別がつけやすくなります。
最近増えている電飾のフロア案内ですが、こちらも要注意です。多彩な色で分かりやすく分類しているはずなのですが…。たとえばこの場合、「黄緑色のエレベーターに乗ってきてほしい」と伝えても、黄緑のエレベーターと、山吹色のエレベーターの色が同じような色に見えてしまい、乗るエレベーターを間違えてしまう可能性があります。
色で分類するのがいかに難しいかがよくわかる例ですね。
色は人によって見え方が違います。色を多く使い過ぎないようにして、区別しづらい組み合わせを避けること。そして色以外のデザインの要素をプラスしたり、色名を記載するなどすることで、誰もが理解しやすい案内図になるでしょう。
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[ 一般的な見え方 ]
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[ 赤が暗く見えるタイプの疑似表現 ]
一般的な見え方(左図)では、4つのエレベーター「A」「C」「D」「E」はそれぞれ異なる色で示されています(Aが水色、Cが山吹、Dが黄緑、Eがピンク)。色を区別しづらい方の場合、「C」と「D」とが同系色に見え、赤が暗く見えるタイプの方では、さらに「A」と「E」も似た色に見えます(右図)。そのため、色だけで情報を伝えてもどれが正しいのか判断できません。人によってどの色の組み合わせがみえづらいかは様々なので文字情報で伝えることが大切です。
普段、何気なく見ているものでも、実は情報がきちんと伝わらない表示がこんなにたくさんあったんですね!
ダイバーシティの推進など多様性が重視される時代なので、今後は色のユニバーサルデザインへの注目度がますます高まっていくことでしょう。
私も早速、色のユニバーサルデザインについて学んでいきたいです!
「特定の色の組み合わせが判別しにくい」人たちにとっては、一見わかり易く色分けされている鉄道の路線図や、危険を知らせるサイン、電源のON/OFFを示すパイロットランプなどが同じような色に見えてしまう場合があります。また、白内障等の眼の老化によっても色覚は変化し、区別できない色が増えるといわれています。高齢化社会が進む中、このような問題は更に増える可能性があります。色彩検定UC級 は「色に携わる全ての人が色覚多様性について正しい知識を持ち、配慮をすることができる社会の実現」を目指し、2019年から全ての都道府県で実施しています。色のユニバーサルデザインに関する知識を養うことで、仕事のスキルアップへとつながります。