私の色彩ヒストリー

小さな反抗心をきっかけに色の世界に。
世の中を見通せる「色彩学」のチカラを
今はインテリアビジネスの世界に活用。
全従業員の色彩検定2級以上取得もめざす。

笹佳美さん

色彩検定協会認定講師 第1期生
株式会社ジアス 代表取締役社長

笹 佳美さん

  • 「色」を通して「世の中」をみることができる。

    「色即是空・空即是色」 私が色彩講師として講習をする際、必ず受講者にお伝えする言葉です。これほどまでに色彩の世界の真髄をついている言葉があるでしょうか。自然の森羅万象、ヒトの生理・心理的現象、そして哲学的な示唆に富んでいて、まさに色彩の本質を表現していると思います。また、日本語の「色」は、英語の「Color」が持つ意味以上に様々な意味があり、そのためニュアンスを含んだ複雑な使われ方もします。私は興味の赴くまま、これまでに多くの国を訪れ、様々な場所に行きました。国旗に使われる色彩の違い、宗教ごとに重要視される色、モロッコのピンクのスーク(市場)、ヨーロッパの絢爛な教会装飾、東南アジアのフルーツの色、アマゾンの原風景……。その旅に講師養成講座で学んだ色彩学の視点を持って行けたことは幸運でした。たくさんの気付きがあり、その知見や見聞が今では大きな財産となっています。そんな色彩の多様な世界観を、文化的要素も交えながら、楽しく学んで欲しいという思いが私の中には常にあります。なぜなら、色彩学は「色」を通して「世の中」をみることができるからです。

  • 受検の動機は職場での反抗心。

    超就職氷河期(今では想像できない)と言われた時代にやっと就職できた私ですが、最初は「おしゃれなキャリアウーマンになろう!」なんて夢を描いていました。インテリアが好きで、それに関わる仕事に就けたことにワクワクしていました。しかし、私に与えられた仕事は、カーテン生地をカットすることとお茶汲み。すでに男女雇用機会均等法が施行されていましたが、現実は‥‥。「女性の仕事は結婚までの社会勉強」という考えが、まだまかり通っている職場でした。
    そんな中、先輩社員の一人が持っていたテキストが目に留まりました。色彩検定3級のテキストです。聞くと勉強はしているが、2回目のチャレンジとのこと。勉強や資格といったものに全く縁が無かった私ですが、俄然興味を抱きました。なぜならその先輩にほんの少々、意地悪されていたからです。こうなったら私は一発で合格しよう。色彩には興味があるし、今後の仕事にも役に立つだろう。どうせなら2級、いや、1級を取得してやろう(この生意気さが問題だったのですけれど)。最初の動機はそんなところであったかと思います。

    • ヒストリー01
    • ヒストリー02
    • ヒストリー03
      インポートファブリックの多彩な色彩表現。
  • 机上の勉強が体に染み込んでいく感覚。

    1級対策で民間のスクールに通い、2級、3級は並行して独学で勉強しました。結果、1級に無事合格し、その年、色彩講師養成講座開講の案内がありました。参考図書で目にしていた、色彩学の第一人者の方ばかりが講師に名を連ねられ、どのような講義になるのか興味が湧きました(偉人のように思っていた人が同時代に実在しているんだ、という興味でもありました)。超が付くほど忘れっぽい私は、せっかく勉強した内容を忘れないうちに受けてみようと即決しました。
    受講してみると、回を重ねるごとに色彩学の各分野がつながっていく感覚がありました。どの先生も、検定対策で勉強した内容の、さらに奥深くにある原理原則を説明してくださるのです。色彩は、光がある限りそこに存在しています。季節や時間の移り変わり、絵画や染色、住宅外構や店舗での色の見え方など、学習した内容があらゆる日常の場面で確認できます。机上の勉強が体に染み込んでいく感覚があり、それも結果として続けられる動機になったのだろうと思います。そうして私はみるみるうちに色彩の世界に引き込まれていきました。

  • 美しさを論理的に証明する色彩学を仕事に活用。

    資格を持っている、ということからセミナーなどの依頼を引き受けることもありましたし、色彩検定協会からのご紹介で、大学の公開講座で講師をさせていただいたこともありました。現在の会社ではインテリアファブリックの商品開発に関わり、その過程で染色技術や織物技術など、色彩学プラスアルファの知識を身を付けることができました。
    ヨーロッパからの輸入品を取り扱っていることもあって、装飾的価値が高いインポートファブリックの染色技術やその発色、デザインの表現方法には、大いに刺激を受けたものです。色彩学は自分が美しいと思ったものを論理的に証明する手段でもあります。私は素晴らしいと思ったデザインについて、なぜ素晴らしいのかを色彩学の見地から、自然と頭の中で分析しています。反射や透過、光源の種類と演色性、中間混色、配色理論(でも好きな分野は「視細胞の働き」)。今でも全ての書籍とノートはとってありますし、講義をする際に見直すとともに、当時用意した教材も活用しています。

  • 経営者であると同時に従業員を
    「色」の世界に導く講師でもある。

    現在では経営的な業務を担っておりますが、根底にあるのはやはり講師養成講座で得た「世の中」の見方です。変わり行くもの、移ろうもの、なぜそのように見えるのか、その物理的、化学的現象は何か。なぜそのような感情を持つのか、その生理的反応、心理的要因は何か。色彩学は、資格取得だけではなく、結果として私に客観的な考え方の基本を教えてくれたものであり、同時に感性を高める技術を教えてくれたものでもあります。
    弊社はオーダーカーテンを中心にインテリアの提案販売をする会社です。インテリアコーディネートを実践する際、色彩の知識は必須項目。有志のみで行っていた勉強会を今では社内の研修制度として整理し、毎年夏期、冬期の年2回、2級合格のための研修を実施しています。現在のところ、社内研修を経ての合格率は100%。数年後には350名の従業員全員が色彩検定2級以上を取得していることが目標です。──もちろん講師は私です。

    • ヒストリー04
    • ヒストリー05
      自身が講師を勤め、年2回行う社内研修の風景。