私の色彩ヒストリー

ガーデニング大好き専業主婦が一念発起し、植物の魅力で人を元気にする『園芸療法士』に。
癒しの効果を最大限に発揮すべく色彩を学び、園芸療法のさらなる普及・発展にも貢献する。

横田優子さん

色彩検定協会認定講師 第16期生
兵庫県園芸療法士・日本園芸療法学会認定登録園芸療法士
兵庫県立大学 緑環境景観マネジメント研究科 客員研究員
兵庫県立淡路景観園芸学校 園芸療法課程 非常勤講師
NPO法人 園芸療法と歩む会 副理事長

横田 優子さん

  • 園芸療法士という仕事をご存知ですか。

    『園芸療法』という言葉をお聞きになったことがありますか?『園芸療法』とは、緑の環境や植物、園芸作業や植物関連の創作活動をツールとして、支援を必要とする人々の身体的・精神的・社会的健康の維持・向上を目指すものです。最近では認知症予防やオフィスにおけるメンタルヘルスケアなどへもそのニーズは広がっています。
    私は高齢者デイサービスセンターでの園芸療法や、公園での園芸福祉活動のほか、園芸療法士養成校での非常勤講師(『園芸療法における植物の利用』『園芸療法実習』)や園芸療法の研究に携わっています。
    私が「色」を本格的に学ぼうと思ったきっかけは、園芸療法士資格取得のため、兵庫県立淡路景観園芸学校 園芸療法課程の受験を考え始めた頃に遡ります。

    ヒストリー01
    園芸療法の現場 野菜の手入れ。
  • 園芸療法の実践には色彩が重要と確信。

    当時、私はガーデニングが大好きな専業主婦でした。受験生には看護師や作業療法士、介護福祉士などの資格を持った方々も多くいます。そこで、私が受験までにアピールできる資格として選んだのが“色彩”の資格である色彩検定です。色彩を、対人支援に植物を用いる上で最重要と位置づけ、公式テキストの他、あらゆる参考書・問題集を購入して独学で学びました。色彩は生活に密着しているため、楽しく上位の級へと学びを進めることができましたが、さすがに1級2次の実技試験対策は独学では厳しいものでした。かといって、カラースクールに通う時間的ゆとりもなかったため、問題集を片手に、ひたすら必要な資料を書き写して暗記したり、色票の切り貼りを繰り返したり、色彩漬けの毎日を送ったことが懐かしく思い出されます。

    ヒストリー02
    園芸療法の現場 重陽の節句。
  • 園芸療法の普及に貢献し、
    後進の育成にも役立ちたい。

    園芸療法の実践に加え、普及啓発活動や園芸療法における植物選びに役立つ色彩についての講義なども行いたいと考えていた私は、知識と同時に、話し方や教授法も専門的に学ぶことのできる色彩講師養成講座を受講することにしました。
    講座に参加して驚いたのは、様々な分野で既に活躍している受講者が多いことでした。休憩時間の雑談で漏れ聞こえるトピックもとても専門的なものが多く、皆さんの知識と経験の深さが伺えました。各分野の最高の教授陣から学ぶことにはとてもわくわくしていましたが、反面、「独学の私がついていくことができるだろうか・・・」とひどく不安になりました。医療・福祉分野からの受講者はほとんどなく、心細いスタートでしたが、かえって私は『園芸療法の人』として皆さんの印象に残ったようでした。
    色彩講師のプロをめざすだけあって講座は充実した内容で、緊張の連続でした。課題によってはどのようなものを提出すればよいのか見当すらつかないものもありましたが、その分野で働いている方が「こんな感じのものよ」と写真を示して教えてくださるなど、同期の仲間に支えられて何とか乗り切ることができました。結局、私は仕事の都合で2年がかりで講師資格を取得することになりましたが、講師資格とともに、すばらしい仲間を得ることができました。

    ヒストリー03
    牛乳パックのフラワーバスケット。
  • 対象者の自己肯定感につながる
    効果的な介入を心がけて。

    植物の五感への刺激を活用する園芸療法で、視覚は重要な役割を果たします。色に関して言えば、美しい色、嗜好色、思い出の色、なじみの色、季節の色、花の大きさによる視覚的訴求力などを考えて植物材料を用意します。好きな色の植物は対象者の活動への参加意欲を高め、配色を考えながらの寄せ植えや創作活動は、思考・判断など認知機能への刺激をもたらします。自由な自己表現の結果できた作品が美しいことは、自己肯定感につながります。技術の巧拙に関係なく、植物の美しさが後押ししてくれるのです。園芸療法士が豊かな色彩の知識を持つことで、効果的な介入が期待できます。

    ヒストリー04
    押し花の豊かな色彩。
  • 植物の美しさをもっと多様な視点から
    伝えるために。

    植物に特化した色彩を扱う植物利用法の授業では、色がもたらす心理的効果を紹介したり、スライドを用いて花色から受ける印象について考えてもらったりしてから,色相環における色の隔たり(色相差)に基づく配色の考え方を紹介しています。客観的な色選びの視点を持つことで、配色のイメージが容易になり、個々の感性のみに頼って、選択する色が偏るのを避けることができます。毎年、学生からは「これまで何となく選んでうまくいかなかったが、色相環をイメージすることで色選びがしやすくなった」「自分の好きな色に偏って色選びをしていたことに気づいた」「色そのものへの興味が増した」などの感想が寄せられます。講義直後のフラワーアレンジメント実習における作品披露では、配色の工夫をアピールする学生が多く見られます。
    話は変わりますが、園芸療法のセッションでは、対象者がどの色を選んでも正解/不正解がないこともメリットです。初顔合わせの自己紹介で、私は「好きな色」「好きな花/野菜」などを述べてもらうようにしています。簡単に答えることができ、みんなから「それもいいね」という反応が得られやすく、スムーズな導入につながっています。

    ヒストリー05
    1つの花にも多様な色が存在する。
  • 色の心理的効果や客観的な色選びの視点を教示。

    植物の色彩の魅力は、ひとつの花の中にも微妙なニュアンスの色が存在すること、個々の花に茎や葉がついていて、自然の配色が存在すること、同じ色の花でも、花の形・大きさによって色の比率が異なり、印象が変わることです。植物の美しさに触れながら日々仕事ができることに幸せを感じています。
    そして、新たに色彩検定 UC級 が始まりました。同じ植物を見ても全ての人が同じ色として捉えているとは限らないという視点や、加齢・疾患により色覚/視野が変化するという視点を園芸療法介入に活かすとともに、講義や学会発表のスライドの色使いにも反映していきたいと思います。さらに、医療・福祉分野で活かせる色彩(コミュニケーション・ツールとしての色彩、対象者の心理状態や精神状態の評価ツールとしての色彩、セルフケアに生かす色彩など)についても考えていきたいと思います。

    • ヒストリー06
      アメリカ園芸療法学会2018 Charles A. Lewis賞授賞式。
    • ヒストリー07
      植物利用法講義資料 花色から受ける印象。
    • ヒストリー08
      植物利用法 講義風景。