私の色彩ヒストリー

偶然の巡り合わせから色彩講師の仕事に猪突猛進。色彩学を深めることも、色彩を教えることも大きな喜びに。目指すのは、より多くの人々が色彩の知識と魅力を理解し、その力を活かしてより豊かな人生をおくることができる社会の実現。

和泉 志穂さん

色彩検定協会認定講師/23期生
色彩講師
武庫川女子大学
社会情報学部社会情報学科 准教授

和泉 志穂さん

  • きっかけは「色彩を教えてみない?」の一言

    昔から興味・関心があることには猪突猛進できるタイプでした。そんな私が進学した大学では、情報系学科にも関わらず、陶芸や機織り、映像やファッション、マーケティングまで、多岐にわたる学びに触れることができました。何より、先生方がとても楽しそうに仕事をなさっているのが印象的で、次第に大学で働く(教える)ことに興味を持ち、卒業後は出身大学で助手として勤務することを選択しました。
    助手の任期も終盤に差しかかった頃、色彩の演習授業担当の非常勤の先生が退官されることになり、「色彩を教えてみない?」とお声かけをいただく機会に恵まれました。しかし、学部生時代は産業技術史研究室に所属し、日本の大衆文化の研究をしていた私には、当然、色彩に関する知識も研究経験もありませんでした。今考えると恐ろしいことですが、当時の私は「これはチャンス!」と思い、声をかけてくださった恩師に「少しだけ待ってください!」と頼み込み、色彩関連の授業サポートに付きながら色彩の知識を独学で学ぶことにしたのです。最終的には、大学院に進学し博士号を取得しました。

  • 無知の知を痛感した講師養成講座

    始めに取り掛かったのが色彩検定の取得です。もともと、ファッションが好きで色彩にも興味があったため、水を得た魚のように学び、それは楽しいものでした。その後、独学に限界を感じて、講師養成講座に参加することになるのですが、これが本当に貴重な経験となりました。色彩学に精通せず、人脈の無い私でも各分野の著名な先生方に直接教えを乞うことができたからです。
    一方で、学べば学ぶほど自身の知識の無さを痛感し、尽きることのない膨大な色彩学の範囲に圧倒されました。今でこそ、色彩学は学際的であるがゆえに研究テーマが尽きない分野でもある!と前向きに捉えられますが、当時はそのような余裕は全くありませんでした。さらに、宮内博実先生のカラーイメージコーディネート講座にも参加し、感性マーケティングの基礎を理論的に学びました。各講座で共に切磋琢磨した仲間とは、現在も連絡を取り合う仲になっています。

  • 色彩の魅力を学生たちと共有することが大きな喜びに

    講師として勤めるようになって目指したのは、学生たちに色彩の魅力を広めることです。色彩は私たちの日常生活に深く関わるため、学生の好奇心と興味を刺激します。主観的な要素を含むため、対話やディスカッションを通じた学びを提供できますし、色の観察や実験では、実践的な学びの機会を提供することができます。また、芸術やデザイン分野においても重要な要素であるため、創造的な思考を促進することが可能です。色彩学の知識や理解は、学生たちのスキルや表現力を向上させ、学生の成長と発展を支援することができます。
    その成果として、色彩検定の団体の部において、武庫川女子大学・武庫川女子大学短期大学部は、現在まで4年連続で文部科学大臣賞を受賞し、個人の部でも受賞者を輩出する成績を修めることができるようになりました。

    • ヒストリー01
      実際の授業の様子
    • ヒストリー02
      廣田神社(兵庫県西宮市)の授与品「神様のつぶやき」(香り付きみくじ)をゼミ生が企画した際の色校正の様子
    • ヒストリー03
      色彩の知識と魅力を理解したゼミ生たちが
      巣立つ様子
  • 乳児の離乳食介助の困りごとに
    色彩の効果を活用できないか

    私は、2021年に出産を経て、現在、育児をしながら大学で勤務しています。この経験のなかで着目した研究テーマが「乳児の離乳食介助×色彩」です。厚労省の最新の調査結果では、養育者の7割強が離乳食に対し何らかの困りごとを有していることが報告されています。また、離乳食場面の観察調査では、離乳食を与える(介助する)ことの困難さが指摘されていました。離乳食づくりは既製品を利用することで代用が可能ですが、離乳食介助はそうはいきません。実際に私自身も毎食30分〜1時間を介助に費やし疲弊しきっていました。
    このような状況下で、色彩の心理効果を活用することで養育者の負担を軽減できないか、乳児の食行動への積極性を向上できないかと考え、現在、研究を遂行しているところです。私の目指す未来は、より多くの人々が色彩の知識と魅力を理解し、その力を活かしてより豊かな人生をおくることができる社会の実現です。研究成果が出た際には、ほんの少しだけ、誰かの人生を豊かにすることができるのではないか、と信じて邁進していきます。

    • ヒストリー04
    • ヒストリー05
      離乳食介助の様子をディープラーニングで
      解析している様子