私の色彩ヒストリー

映画監督を夢見て留学したフランスで、ふとしたことからファッションの世界に。帰国後、教員として色彩講座を担当するために色彩について基礎から学習。色彩とファッションの関係性をさらに探求し、知識を未来へとつなげていきたい。

平野 大さん

色彩検定協会認定講師/19期生
国際ファッション専門職大学 准教授

平野 大さん

  • 映画監督への夢を胸に渡仏するも葛藤を抱えながら過ごす日々

    私の夢は、映画監督になることでした。大学時代は映画サークルに入り、数多くの自主制作映画を手がけました。その思いから、卒業後は就職せず、パリ第一大学(パンテノン・ソルボンヌ)映画学科の修士課程に入学しました。日本にいた頃は、自分でもかなり映画をみている方だと思っていたのですが、大学での授業は映画理論が中心で、現実は非常に厳しいものでした。それでも、精一杯努力を重ね、どうにか修士課程は修了することができました。このまま映画理論を軸に研究を進め、博士課程に進学することには限界を感じていましたが、それでも、映画制作への思いを捨て切ることはできませんでした。
    そうした中、パリ第十大学(ナンテール)に、記録映画を制作しながら、実践に基づいて映画を論じることができる博士課程があることを知り、入学を決意。入学後は記録映画の制作と博士論文の執筆に向けた準備を始めました。しかし、実際に記録映画を制作する段階になって、「撮影テーマを何にするか」という大きな問題が私の前に立ちはだかりました。

  • 映画制作をきっかけにファッションの世界に触れる

    そんなとき、両親がファッションに携わっていて、私自身も小さいころからファッションに慣れ親しんでいたことをふと思い出しました。両親は、アトリエで制作した服や帽子(写真①)を自らの店舗で販売し、帽子教室も開いています。私の頭の中に「帽子」というテーマがひらめき、その後、帽子に関わるさまざまな出会いが訪れるようになりました。例えば、フランスのシャゼル=シュール=リヨン郊外にある帽子博物館(写真②)や帽子製造工場を数多く抱える南仏の町、コサッドなどで調査をする機会に恵まれました。最終的には、帽子博物館で行われている帽子制作研修と両親の帽子教室の模様を撮影し、その映像をふまえた『日仏の帽子制作技術における映像分析とその撮影戦略』という博士論文を書き上げました。
    その後、縁があり、パリ市立ガリエラ・モード美術館で研修の機会に恵まれ、美術館所蔵の帽子を整理する仕事を任されました。私は当初、19世紀から20世紀にかけての色鮮やかな婦人帽の整理をイメージしていたのですが、最初に担当したのは膨大な数のシルクハットを整理する仕事でした。シルクハットを日々整理していく中で、どうしてシルクハットが19世紀の紳士を象徴する帽子となったのかという疑問が湧き上がりました。そこで、その思いを出発点にシルクハットの研究(写真③④)に本格的に取り組むことになったのです。

    • ヒストリー01
      ▲両親が制作した帽子と帽子木型(写真①)
    • ヒストリー02
      ▲帽子博物館(写真②)
    • ヒストリー03
      ▲シルクハット研究の際に収集した資料
      ミューゼ・デ・モード、1839年8月号(写真③)
    • ヒストリー04
      ▲シルクハットとシルクハットの木型(写真④)
  • ファッション教育を通じて色彩の重要性を痛感

    フランスでの留学を終えた私は、世界最古のファッション専門学校であるフランスのエスモードの東京校で、教員として勤めることになりました。そこでは主に服飾史を教えていましたが、新たに色彩検定受験を目的とした色彩講座が開講されることになり、私がその講座を担当することになったため、色彩検定の3級から1級までを取得しました。色彩検定ではファッション関連の出題も多く、色彩とファッションの関りの強さを改めて実感しました。色彩検定の試験勉強は、後の授業カリキュラムの作成にも非常に役に立ちました。さらに、色彩を正しく教えるためには、より高い理解力や指導力の習得が必要だと考え、色彩講師養成講座を受講しました。講座の授業は、毎回非常に充実しており、そこで学んだことは現在でもさまざまなところで役に立っています。
    その後、国際ファッション専門職大学の准教授となり、ファッション関連の授業を数多く担当することになりました。その中で、最も色彩養成講座の知識が役立っている科目が「ファッションデザイン論」です。「ファッションデザイン論」とは、ファッションにおけるデザインの役割について、クリエーションやビジネスの観点から考えていくことを目的としており、色彩も極めて重要な位置を占めます。
    「ファッションデザイン論」の授業で取り組む課題の1つに、ピクトグラムにパワーポイントの「図形」機能のみを使用して、服をデザインするというものがあります(図①)。この課題では、形や色の感覚を養っていくことを目的としており、図形から服の形を想像(創造)しつつ、適切な配色を考えていく必要があります。また、学生たちは「色彩論入門」という授業も履修しており、そこで学んだ知識を私の授業で上手く活用できるような流れもできています。

    ヒストリー05
    ▲「ファッションデザイン論」の授業課題例(図①)
  • ファッションと色彩の関係を学生と未来に伝えることが目標

    私は色彩を学ぶことで、ファッションをより深く理解することがでるようになりました。ファッションと色彩は密接に関連しており、ファッション業界で活躍するためには、色に関する知識は欠かすことができません。私が教える学生たちには色彩の知識をしっかりと習得し、ファッションの世界で大きく羽ばたいていって欲しいと願っています。
    そして現在の私の夢は、この奥深い色彩の世界をさらに探求し、ファッションと色彩の関係性を一冊の研究書にまとめることです。